ロシアより愛をこめて

  • 2017.05.11 Thursday
  • 22:18

 愛国者が果たすべき唯一の責務は常に自殺。

 

 W.リップマンが述べるに、「どんな政治的信条も、最後は針を刺された風船のように

破綻する。歴史がそれを証明している」。

 

「ジョンとアレンの二人の兄弟が、我々がいま生きている世界を作り上げた。そして、

アジアもアフリカもラテンアメリカも、混乱を続けたままである。そうした世界の原型を

作り上げたダレス兄弟とはいかなる人物であったのか。彼らはいったい何をしたの

だろう。この問いに答えられれば、現代の混迷の謎に迫ることができる。……二人の

行動の根底には、『アメリカは特別な国である』という、世界のいかなる国よりも倫理的な

伝統があり、よりよい未来を見通すことができる国であるという信念……があった。

だからこそ、他の国がとってはならない行動でさえも我が国には許された。……

ダレス兄弟にはこれに加えて宣教師的信条があった。キリスト教を信ずる者だけが

理解できる『永遠の真実(Eternal Truth)』を信じていた。それを信ずるからこそ未開人や

後れた国を啓蒙する義務があると考えた。

 二人には、これに加えてもう一つの重大な信念があった。

『米国企業は世界のどこにおいても自由な活動を許されるべきだ。それが世界の幸福に

つながる』」。

 

 D.アイゼンハワーの下、兄は国務長官、弟はCIA長官、そんな時代を振り返っての

とある回顧から。

「冷戦時代にあっては、アメリカの安全保障を脅かすのはクレムリンであり、その中心に

スターリンが鎮座しているというイメージがあった。スターリンは悪魔であり、暴君だった。

……世界は共産主義世界と自由主義世界に二分される。この戦いにどっちつかずの

態度は許されない。そういう時代だった。あの冷戦は『聖戦』だった」。

 かかる精神の代表者、ダレス兄弟にとって、アメリカとの同盟に与せぬナショナリストは、

ソビエトに下る共産主義者へと変換される。果たして彼らはモンスターハンターと化した。

 例えばイランの場合、イギリス支配への反発を唱え、石油権益の国有化を模索した

首相M.モサッデクが標的となった。時のキャビネットはその動きをソビエトの支配下に

入った証と結論づけた。直ちに食い止めねば、中東全域の石油が東側に陥落する、

そんな危機感から各種工作が実行され、まもなくクーデターに成功する。

 もちろん後の歴史は周知の通り、皇帝シャーの傀儡政権への不満からホメイニ革命が

勃発し、イスラーム脅威論の防波堤として慌てて隣国イラクを支援するもS.フセインなる

飼い犬に手を噛まれ、そして今日の混沌へと至る。

 N.マキャヴェッリに言わせれば、目的は手段を正当化する。

 ただし、そもそもの目的がファンタジーをこじらせていた場合には……。

 

 この兄弟のヒステリーを象徴するようなエピソードがある。

 N.フルシチョフが「進めた最初のアフリカ支援はギニアに車を届けることだった、

贈られたのは『雪掻き車両』であった。ギニアでは一片の雪も降ったことはなかった。

続いて、コンゴの『労働者と農民』に小麦を贈った。しかしコンゴには製粉所がなかった。

ソ連軍顧問は大量のプロパガンダ冊子を用意して配布したが、それは英語で

書かれていた。ベルギー(フランス語圏)の植民地だったコンゴの民衆に英語が

読めるはずもなかった」。

 誰がどう見ても、「我々の冷戦の相手が虚構の産物だったことは明らかだ」。

 

 そして、今日の情勢を鑑みれば、独立の志士P.ルムンバの無駄死にも明らかだ。

世界は今日もダレス兄弟と同じ道をひたすらになぞり続ける。外交においては、

ひたすらに強硬路線を煽り、善悪二元論と友敵理論で世界の地図を染め分ける

ような輩が脳障害のサルどもの拍手喝采を浴び、そんな三文役者の陰に隠れて、

グローバル企業はぬくぬくと焼け太る。

 どこぞの国の宰相は、経済という仕方でどうしようもなく底の抜けた時代遅れの

「封じ込め」戦略の再現に固執して、己が陣営に引き込もうとでも思っているのか、

世界中に無意味に金をばらまき続ける。未必の故意でヘリが墜落しても、それが

主権の侵害だと思い至る形跡すらない。

 頭が悪いって、怖い。

 この本を現在進行形のテキストとして読むことに違和感を抱ける方がどうかしている。

 

 狂気とは、同じ行動を繰り返しながら、ただし別の結果を望むこと。

葬送行進曲

  • 2017.04.21 Friday
  • 21:09

「父・伊藤律の『無罪』は、主として私以外の多くの人たちの力によって完全に

証明された。もはや私には付け足すものはなくなった。ようやく気が楽になった。

もし私にできることがあるとすれば、レッテルなどへの気兼ねや政治的立場への

配慮などもすることなく、肩の力を抜いて、私が体験したこと、見たままのことを

記すことではないか。……そのなかには、近くにいる父とともに過ごした最後の

9年間のこと、その前後のこと、父の不在だったときの母の苦労のこと、とくに父が

冤罪=濡れ衣を着せられた家族の一員として、息子として感じ考えたことも

含まれるだろう。いまをおいて私を発言する機会はないと思った」。

 

 冒頭間もなく、息を呑むような経験を語る。警察や公安が当たり前のように子どもの

後を尾行する。

「ぼくらの家族が異常で周囲が正常なのか、こちらが正常で周囲が異常なのか」。

 スパイ疑惑の渦に翻弄された数奇な運命の自叙伝を期待するも……。

 

 内ゲバと、内ゲバと、あと内ゲバ。

 日本共産党史を知るものにとってはあるいは興味深い描写もあるのかもしれないが、

本書を手にするまでは伊藤律の名前すら知らなかった私にとっては、並ぶ固有名詞の

重要性や意味も把握できず、さりとてゾルゲ事件の文脈や中国での投獄の経緯などを

ガイドしてくれるわけでもなく、従って本書全体をどう捉えてよいものか、分からない。

 

 そんな中にも、背筋のそばだつ記述があった。

 父・律の葬儀の場面、出棺のときのこと、さる共産党員が「あたかも当然のように、

棺の上を赤旗で覆った。

 そのときだった。私は、一瞬、自分の身体が硬直したかと思った。

 兄・徹がその赤旗を剥ぎ取ったのである」。

 衝撃はそこで終わらない。件の党員が再度、棺にかぶせ、そして兄もまた、剥がす。

 果たしてこのやり取りがどう決着したのか、当事者の記憶は一致を見ない。

「幽霊」にもてあそばれた一家の数十年が凝縮された瞬間、と私は思う。

  

 葬送はしばしば、その者の生前を反映せずにはいない、まるで走馬灯のように。

天網恢恢疎にして駄々漏れ

  • 2017.04.19 Wednesday
  • 21:14

「誰に聞いても、西崎は目立ちたがり屋で、大ぼら吹きで、金にルーズで、女ったらしで、

疑り深い独裁者だった。罵声を浴びせられ、裏切られ、人生を狂わされた部下も多い。

しかし、こうした証言が死者に鞭打つことにはならないはずである。なぜなら品行方正な

常識人に映画の個人プロデューサーつとまる訳もなく、まして全財産を賭けた大博打など

打てる道理がない。その現実を関係者は知り抜いているからである。傲岸不遜で常識に

縛られない西崎なればこそ、『ヤマト』という独創的な作品を生み出し、アニメ界と映画界に

新風を吹き込んだ事実に異を唱える者はいない」。

 

 あるアニメーターを引き抜いた際のエピソード。

「外車買えるくらいの金を出すから、こっちに引っ張ってこいよ」と部下に厳命し、実際に

成功してはじめてサラリーを明かす。

「外車の新車って言った覚えはない。中古車なら買えるだろう」

 モンスターは決して損をしない。ほとんど美しい国の倫理の教科書レベルの世界観。

しかし、純然たる他人事として眺める限り、これほどのエンターテインメントもそうはない、

そんな昭和の興行師伝説。

 

 とはいえ、ヤクザまがいの剛腕だけで『ヤマト』の成功が導かれるはずもない。

 信者こそが最高の宣伝部隊、スティーヴ・ジョブズの到来に先駆けて、ファンを巻き込む

アップル商法を実践してみせた。前売り券にはポスターを、先着順にセル画やレコードを、

AKBマーケティングの原型で行列が行列を生む動員のスパイラルを鮮やかに構築した。

 かくして劇場版はアニメ映画史上空前の興収を達成する。

 

 そして今あるこの世界は、そんな文脈の延長線上にある。

 子ども向けのテレビマンガを巣立ち、おとなも消費するアニメ映画の可能性を模索する。

そんな西崎の試みは、袂を分かった冨野由悠季の闘志に間違いなく火をつけた。同一の

カテゴリーの中で興行成功の先例を持つことが、スタジオ・ジブリを筆頭に後の投資を

呼び込んだことはもはや疑う余地もない。

 あるいはジャパニメーションの枠すら超えて、オタク文化への気づきを与えるにおいても

『ヤマト』の小さからぬ寄与は想像に難くない。

 

『宇宙戦艦ヤマト』の背後にある何か、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』の背後にある何か。

 それはまるで昭和と平成の性格の違いを示唆しているようで、どこか笑いが止まらない。

 

 松本零士、山崎正友、石原慎太郎……そんなろくでもないサルどもにまみれてもなお、

一際突き抜けたクズっぷり。見世物小屋として圧巻の素材。

「民の言葉を天の声とせよ」

  • 2017.04.13 Thursday
  • 20:32

「白血病で死んだと聞いて、そうか、奴は原稿という血を流して死んでいったのだと

思いましたね」「神様がこのような書き手をふっと地上に寄越して、そしてさっと天に

召し上げた」。死者には勝てない。46の若さで夭逝した稀代のコラムニストに思うこと

▼社の垣根を越え、誰しもがその資質に一目置いた。単にノスタルジアの産物とも

片づけ難い。以下にその証明の一例を引く。「彼は、現在の経済繁栄の空虚さと

道義の退廃を怒り『凡庸な平和』をののしってきた。彼の指摘してきた事実が、

われわれの社会に存在することを認めよう。しかし、それを解決する道が彼の実行した

直接行動主義でないことを、歴史はくり返し、われわれに教えつづけてきたのでは

なかったか。民主主義とは、文士劇のもてあそぶ舞台ではない」▼三島由紀夫の

自決を受けた朝日社説。ペンは剣よりも強し。ジャーナリズムの、民主主義の矜持が

滲む。執筆者は本書の主役、深代惇郎▼その足跡を辿る試みは、同時代の新聞を

映さずにいない。警察署内の記者クラブ、暇つぶしの賭け事に勤しむ連中をよそに、

彼はひとりソファに寝そべり読書にふける▼培われた教養は必ずや「天声人語」に

反映される。「権力に狂奔し、怨霊におののく」斑鳩の世を法隆寺の歩みに透かす。

「聖徳太子という日本史で稀有な理想主義的政治家の悲劇」が奇しくも氏の絶筆と

なった▼一点だけ、あえて苦言を呈そう。22ページ、「深代淳郎」、これはいけない。

同床異夢

  • 2017.03.25 Saturday
  • 21:32

 本書の主人公、その名をラース・ビハーリー・ボースと言う。「中村屋に『インドカリー』を

伝えたインド人で、……1910年代のインドを代表する過激な独立運動の指導者である。

……彼はインドに留まることに身の危険を感じると共に、武力革命のための武器と資金を

調達するために海外への逃亡を計画する。そして、その逃亡先として彼が目をつけたのが、

日露戦争に勝利し、国力を高めつつあった日本であった。……1915年の末、イギリスから

強い圧力を受けた日本外務省によって、彼に対する国外退去命令が下される。/この

絶体絶命の窮地を救ったのが、頭山満を筆頭とする玄洋社・黒龍会のアジア主義者たちで

あった。彼らはR.B.ボースを巧みに隠し、ある場所に匿う。その場所こそが、新宿中村屋だ」。

 

R.B.ボースにとってのアジア主義は、単なるアジアの政治的独立を獲得するための

プログラムなどではなく、物質主義に覆われた近代を超克し、宗教的『神性』に基づく

真の国際平和を構築するための存在論だった」。

 あたかもF.テニエスの構図に重なる、すなわち、西洋帝国主義の体現する「物質主義」に

基づいた「ゲゼルシャフト」を、アジア的「精神主義」に基づく「ゲマインシャフト」で打破し、

「再び世界を幸福で包みこむ」、時計の針を戻すように。

 しかし、世界史の告げる限り、理念を共有する夢は、ヴィジョンの食い違いゆえ、必ずや

内部崩壊へと到る。それに比して、利益分配システムの何と強靭たることか。

 ただ金のほか、信じうる価値など人間はもはや持ち得ない。

 

「日本よ! 何処に行かんとするか?」とボースは同床異夢の苦悩を表す。「『イギリスによる

インド支配を打倒すべき』と主張する日本のアジア主義者たちが、一方において中国に対する

紛うことなき帝国主義者の顔を有している」ではないか、と。

 同胞の活動家とて、その未来図を必ずしも共有するものではない。例えばガンディー、

「彼の人格によつて印度独立運動を今日の如く一般普遍化して了つた」ことを評価しつつも、

他方で「本心に於いて英の讃仰者」とその手法に激しい批判を加えずにはいない。

 日本の掲げた「八紘一宇」、「大東亜共栄圏」とて、祖国独立を希求するボースの眼差しと

軌を一にするものではあり得ない。

 そして、彼のアジア主義もいつしか揺らぐ。「1930年代後半以降のR.B.ボースは、インド

独立の実現を最優先するプラグマティストとして日本の帝国主義的動きを追認し、日本による

『アジア解放』戦争を推し進めるための言説を繰り返した。さらに、イタリア・ドイツの

ファシズム体制を容認し、その両国と日本の連帯によるインド解放を目指した」。

 

「恋と革命の味」、サンパール作戦の裏側をえぐる秘史。

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