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- 2020.05.10 Sunday
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評価:
北野 圭介 平凡社 ¥ 972 (2017-07-18) |
概説書って難しい。
本書を読んでつくづく思う。
「一般化して言うと、映画に託されてきた夢は大きく三つに分類できるのでは
ないでしょうか。つくる人の夢、上映する人の夢、そして観る人の夢に、です。
……その上で、あえて思い切った言い方をしたいのですが、ハリウッド映画を
取り巻く、それら三つの夢は、十分に大きな視座から眺めるとき、どうもある定着した
型を時代、時代にもっていたと言えるのではないだろうか、と問いを立ててみようと
いうのが僕の考えた作戦の大本です。……そして、それらの夢は、反発したり
共振したりしながら溶け合い、次第に作品を象る大きな型みたいなものを形成する
ようになっていったと言えるのではないだろうか、だからこそ、ハリウッド映画という
巨大な視覚文化は成り立ちえたのではないだろうか、そう議論の道筋をつけて
おきたいというわけです」。
本書内ではわずか数行で処理されてしまうような固有名詞ひとつだけで、一冊の
本が優に書けてしまう。映画撮影の文法、技術の変遷などを取ってもまた然り。
法律や経済といった社会事情と映画業界の絡みにしてもやはり同じ。
あれもこれも、と多方面に手を伸ばす総花的なテキストが、情報カスケードを
起こした末、さしたる内容を伝えないまま終わる、そんなサンプルのような一冊。
取り上げられる人名、映画タイトルの重要性が半ば自明のものとして話が進む結果、
逆になぜそうした定説が自明化していったのか、という疑問ばかりを膨張させ続ける、
まるで余白だらけの歴史教科書を読まされたときのように。
映画紹介というには簡潔に過ぎて、本書に刺激されて観賞意欲を起こす読者が
そういるようには思えない。映画史的にターニング・ポイントなので踏まえておかねば
いけない一本、と説得しようにもいかんせん議論が物足りない。
2001年の旧版にリライトをかけたというわりに、映画からテレビドラマ、ネットドラマへの
人材や投資の流出といった現代ハリウッドを特徴づける事象は一切言及されない。
あるいは、世界的にも異質なまでにガラパゴス化した日本のコンテンツ消費者なんて
話題にも波及することはない。
すべてにおいて議論というには程遠いまま、ただトピックがさらさらと上滑りしていく、
残念ながら、そんな一冊。