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    忠誠と反逆

    • 2017.10.20 Friday
    • 23:17

    「この本で考えたいのは、ひとことで言うと、戦後日本のことである。

     戦後や民主主義というのは、いまの私たちにとって、まるで空気のようなものだ。私たちが

    生きる世の中の前提である一方、普段はまったくその存在を感じないもの。したがって、

    節目の際にはジャーナリズムや出版界が『戦後何十年』と騒ぎたて、ことあるごとにデモや

    キャンペーンで、“民主主義”が声高に叫ばれるものの、世間の多くの人々は無関心で

    興味がない。

     だからといって、私はここで、われわれは戦後日本が抱える問題にもっと関心を持つ

    べきだとか、もっと真剣に考えようなどと言いたいのではない。

     むしろ逆で、私たちは『戦後』という問題について真剣になればなるほど、的をはずして

    しまうということを、この本の最後では述べるつもりである」。

     と、こんな出だしで本書は幕を開ける。『丸山眞男の敗北』と銘打ちつつも、その名が

    なかなか現れない。今にして思えば、このことが後のすべてを予告していたのだろう。

     

     丸山のラフスケッチとして、本書ではいわば二度の「転向」が言及される。

     一度目は戦中における「転向」、西洋型合理主義型「近代」に抗って、徂徠学に依拠しつつ

    「近代の超克」を謳った丸山が、いつしか日本における「近代」の不徹底を指摘する。

    「超克」どころか、入口にすら立っていなかった、というわけだ。

     そして二度目のそれは――本書がその動きを指して「転向」と呼ぶことはないが――

    「政治学者」から「日本思想史家」への「転向」。今なお果たされぬ「近代」という問題の根本を

    探れば、「政治」ではなく、日本の精神史を取り上げなければならない。

    「八月革命」から「逆コース」への「転向」、「鬼畜米英」から「ギブミーチョコレート」への

    「転向」、しかし彼らは誰ひとり自らの「転向」を知らない。

     彼らを変えることなどできない、ただし彼らは勝手に変わる。

     そんな群像を比類なく正確に描いてみせたのが大江健三郎『万延元年のフットボール』、

    すなわち日本の大衆をめぐる「空虚な中心」性の試論としての。

     あるいは遠藤周作『沈黙』にも通じるようなこの現象を指して、「敗北」と呼ぶのだろう、と

    勝手に先読みしていたのだが、話ははるか明後日の方向を目指す。

    「風のない時代には、どう対峙すればいいのか。『相対の哲学』では、無風の状態において

    どのような行動を取れば、時代と正面から向き合うことになるのだろうか。

     丸山には想像がつかなかっただろうが、その答えは決して難しくない。それはひとことで

    言えば、無風にどっぷりとつかって、力を抜くことである。逆風の状態では、政治や社会の

    動向に対して緊張して身構え、対決姿勢を取ることが時代に向き合うことだったが、無風の

    状態では、命を懸けて戦う状況ではないことを受け入れ、豊かさと安心でふやけた体で、

    興奮せず内省的に考えることが必要となる。それこそが、無風から顔をそむけず、

    逃げ出さない、唯一の方法だろう」。

     誰もが呆れを誘われずにはいないだろう、こんな自論を引き出すために、いったいどこに

    丸山を経由する必然があったというのだろうか。

     なにせ丸山の論理に一向に沈潜しようとしないまま書き進めていくのだから、予兆は

    もちろんそこかしこにあった。とはいえ、ここまでひどい結末を見ることになろうとは。

     我田引水の醜悪さは例えばE.レヴィナスの扱いについても然り。応答主体として

    「あなた」に向けて現象する「わたし」というそもそもの実存論を知らないものだから、

    内田樹なんぞに依拠しつつ語る「死者」論がまるでちぐはぐ。参考文献や引用に

    一切登場しないところを見ても、原テキストをめくってすらいないのだろう。

     

     Facebookにでも書いてれば、という以上に何の感想もない。

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