超変革

  • 2017.11.14 Tuesday
  • 23:26

「強いパイレーツを見られなくなって以降、多くが変わった。選手、コーチ、球団幹部が、

新しくやってきては去っていった。観客動員数が減少した。何年たっても変わらないのは、

試合に負けることと、チームのために費やすお金が少ないこと」。

 本書の舞台は、過去20年にわたり負け越し続けたピッツバーグ・パイレーツ。

 ロサンゼルスやデトロイトよろしく、戦力を激変させるパトロンが舞い降りたわけでもない。

ビリー・ビーンの衝撃も遠い昔、セイバー・メトリクスを把握しないフロントなどMLBにはなく、

ストーブ・リーグでお値打ち品を発掘する難易度も格段に増した。

 ところがそんなチームが、2013年、プレー・オフ進出を果たす。

 すべてマジックには種も仕掛けもある。彼らにとっての魔法の杖もやはりビッグデータだった。

 

 例えば彼らが目をつけたのは、守備時のシフトだった。

 ある研究者が指摘するに、「メジャーリーグの打者のゴロの73パーセントが引っ張る方向に

飛んでい」た。「2011年に最も多く変則シフトを敷かれた打者8人を見ると、相手が守備

シフトを採用した場合には打率が51厘も下がっている」と推定された。そして彼は言う。

「メジャーリーグの100人の打者――全体の25パーセントの打者に対して守備シフトを

敷くべきだ」と。確かに「グラウンド内に偏って野手を配置するのは直感に反する作戦」に

違いなかった。異議を唱える選手もいた。それでも、ピッツバーグは実践した。

 結果、「守備防御点は2012年にマイナス25点だったのが2013年にはプラス68点と

93点も向上したため、9.3勝分が増えた計算になる」。

 

 PITCHf/xなる解析システムが明らかにしたのは投手のスキルだけではなかった。

「捕手によるボールの捕り方は視覚のトリックで、その巧みなごまかしの技術によって

主審にきわどいコースの投球をストライクと判定させることができる」。このフレーミングが

晴れて数値化される運びとなった。優秀な捕手は、この技術でシーズンで最大30ほどの

失点を防ぐ、と推定される。幸運にも、FA市場には条件を満たす逸材が眠っていた。

その名をラッセル・マーティンという。

 ピッツバーグはこのデータに、この男に賭けた。

 

 そして現実の「ビッグデータ・ベースボール」は、さらなる高みを目指す。

 この年、ナ・リーグ中地区の最下位に沈んだシカゴ・カブスは、シフトの先駆者J.マドンや

データ活用でボストンを世界一に導いたT.エプスタインの指揮の下、2016年、世紀をまたぐ

ヤギの呪縛から解き放たれた。

 3年連続100敗を気にも留めずタンキングに励んだヒューストンは、データの示唆に導かれ

フライボール・ヒッターを磨き上げ、見事2017年のワールド・シリーズを射止めた。

 本書はビッグデータ万能論を振りかざすわけではない。むしろ、この成功が教えるものは、

野球に限らず、人間がビッグデータとどうつき合っていくのか、という点にこそある。

 古典的な経験論者は、打者への内角攻めの有効を信じ、そして統計に問いかけた。

「このような質問をぶつけた時、コーチたちは2人が快く受け入れてくれたことに驚いた。

分析官たちは質問を鼻で笑ったり、あきれて目をむいたりしなかった。コーチたちの考えに

興味を示したのだ。……アルゴリズムが、すべての答えを知っているとは考えていなかった。

むしろ、質問されることを望んでいたのだ」。そして「内角を攻められた後、打者は同じ打席で

外角のボールを引っ張ってゴロを打つ傾向が強いことを、数字は示していたのだ」。

 件の分析官は言う。「数学的でもあるけど、同時に今でもなお芸術対科学の議論がある

……そういったものにも芸術的な側面があるというのが僕の考えだ。そこがいちばん大きな

ところだと思うな」。

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  • 2019.08.18 Sunday
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