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    ラブという薬

    • 2018.04.14 Saturday
    • 22:17

     面と向かって話しているというのに、あからさまに心ここにあらずの顔をされる。

     退屈なのか、役に立たないのか、いずれにせよインセンティヴの欠如にしか原因を

    発想できず、自分の落ち度と気づかぬふりを決め込むことしかできなかった。

     そんなとき、筆者の前著『脳が壊れた』を読む。

     目から鱗が落ちた。

     

    「約束ごとを守らないし、自分でした約束を平気で忘れる。相手の立場になって

    人の気持ちを考えるという習慣がなく、自分勝手に見える。文句が多い。すぐ人の

    せいにする。人を信じず裏切る、話は分かりづらく、気が短く、言葉の代わりに暴力を

    コミュニケーションの手段にしがち。自己管理が苦手で落ち着きがなくて、だらしなく、

    不潔なケースもある。将来のために今すべきことはまず100%先送りにし、衝動的に

    今の享楽を優先する」。

     経済状況等の定義に照らせば「支援しなければならない人たち」の人格の典型を

    羅列したものだという。そうした取材対象に向き合ってきた筆者はかつて「当たり前の

    ルールやマナー」を学習する環境になかったのだろう、と推察していた。

     しかし、自身が脳梗塞から高次脳機能障害を抱えるに至る中で、実は別の要因が

    作用していたことを直感する。

     彼らは「脳コワさん」[「脳機能に不自由を抱えた様々な当事者」を指す]だった。

     

    「脳コワさん当事者になって、その苦しさがどれほど苛烈なものなのかを知った僕。

    この苦しさから救われるためには、まずは自らのできなくなったことが何かを知る

    ことが必要だ。その上で、なぜできなくなってしまったのかを考察し、どうしたらできる

    ようになるのかの対策を立てる。これが戦略というものである。

     いざ、脳コワさんの先輩である妻に支えられつつ、僕の脳コワ探求と克服の旅が

    始まったのだった」。

     

    「助けなきゃいけないひとたちが、助けたいと思えるようなひとたちだとは限らない」。

     何というべきか、本書が持つ苦みはこのフレーズに尽きてしまう。

    「やれないことはもっと周りに頼れよ」なんてことばをかけてくれる「伴走者」など、

    多くの場合においてそもそも期待できない。もしいたとして、配偶者にその役割を

    期待するのは、往々にしてDV加害者の檻に餌を放り込むに等しい。筆者個人の

    経験として、電話コンタクトの困難から着信への応対拒否を各所に宣言したというが、

    それだけの信頼関係を予め構築できていたことや理解を示せるほどの知的水準を周囲が

    満たしているという前提があってこそ可能なわけで、「脳コワさん」一般が同じ対応を

    受けられるとは残念ながら思えない(そもそも症状を把握して、自ら受容し、緩和策を

    提示する、というプロセスに辿り着くことすら難しい)。

     児童虐待のように、社会政策が「脳コワさん」を捕捉するのは、ほとんどの場合、

    重篤な悲劇という結果を待ってのことに過ぎない。過剰な介入は単に隠蔽やコスト肥大に

    つながるだけでさしたる実効性を持たず、そしておなじみの自己責任ループを辿る。

     本書が湛える「伴走者」との「僥倖」は、逆説的に「孤立」の痛みを強調する。

     それでもあえて、前者の希望を本書に読み解く。誰も「回復」しない世の中よりずっと

    誰かが「回復」できる世の中の方がいい、ただそれだけの理由で。

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