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    あいまいな日本の私

    • 2018.05.29 Tuesday
    • 22:38

    「波瀾万丈というにふさわしい人生だが、毀誉褒貶が相半ばする評価のなかで、

    生前から国民画家としての揺るぎない地位を築いていた。大観を巨匠にしたのは

    どうやら国民、ということになるようだ。もう少し正確を期すならば、近代日本における

    国民国家形成を背景に醸成された国民的一体性(ナショナル・アイデンティティ)で

    ある。……では、それほどまでに人を惹き寄せる、大観の絵の魅力とはどこにあるの

    だろうか。代表作を多数カラー掲載し、つぶさにその生涯を振り返る本書は、その

    答えを見つけるまたとない好機である。……大観の生涯と作品を、同時代思想の

    なかに位置づけながら、『時代』『思想』『表現』から読み解いていこうというのが

    本書の狙いである」。

     

     岡倉天心というメンターとの出会いをはじめとした、大観の履歴についてはもはや

    ほとんど語り尽くされていることだろう。別に本書は未知の史料発掘に基づいて、

    旧来の議論を一変させるようなテキストではない。

     むしろ本書において注目せねばならない点があるとすれば、筆者の意図とは裏腹に、

    「国民的一体性」の醸成の不首尾としての横山大観に違いない。

    「大観は戦後も富士、旭日を描き続けた。しかもそれは膨大な数に及んでいる」。

    この事態に筆者は「自己模倣の虜という暗黒面」ではなく「歴史の必然」を読み解く。

    「つまり、アメリカ民主主義的な新秩序が現れた一方で、新たなる日本を支えるための

    国民精神も依然として必要とされたのであり、国は破れながらも国を守る砦は元のまま

    そこに在るという状況にあって、大観は積極的に富士や旭日を描いた」。

     奇しくも明治元年の水戸に生を享けた大観が富士に仮託した「国民精神」とは何か。

    「美的・倫理的権威」としての天皇に他ならない。

     あるいは大観の記号体系解釈として、この議論は的を射たものなのかもしれない。

    しかし、受け手である広く国民一般にそのリテラシーが横たわっていることを、戦前から

    「今日にいたるまで国民的支持を受け続けている」ことを論拠としてその証明に変えて

    しまうような危うい論理展開に同調するわけには到底いかない。

     その脆さは、天心と大観が構築せんと希求した「日本画」概念の対立軸としての

    西洋画の伝統を参照すれば即座に理解できよう。つまり、聖書や神話のアトリビュートを

    教養としてシェアできる共犯関係が、パトロナージュの文化の下、生産者と消費者の

    ごく狭いサークル内で成り立っていたのがヨーロッパ絵画史であるのに対し、一足飛びに

    国民を射程に教養からの「日本」構築を目指した大観は、漢詩等に広くモチーフを

    求めつつも、その仕事に残念ながら頓挫する。

     そのことは筆者が先行書に従いながら、「気魄」「情熱」「愛国」「日本精神」などと

    いう曖昧極まる仕方でしか語れないことによって無二の証明を得る。これらの語の使用を

    規定するコンテクストを一体誰が共有できているというのだろうか、それはあたかも

    「天皇」なる概念がそうあるように。

     いきおい筆者の図像解釈も、自身のテリトリーへと呼び込むことで、「国民的一体性」の

    欠如を逆説的に表すことしかできない。その極北が「離見の見」なる議論に露呈する。

    大観が直接に言及したわけでもない能楽論――これも例によって何の具体性もない――

    を引きつつ、「能という演劇との共通性を指摘した論考は見当たらない」と嘆きを漏らす。

     筆者が自らの破綻に気づく素振りはひとつとして見えない。

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