「度量衡学は、科学の母である」

  • 2018.10.15 Monday
  • 23:59

2018年は、質量の単位、キログラムの130年ぶりの定義変更を含めた、SI(国際単位系)

大改定の年となります。質量のほかに、電流(アンペア)、熱力学温度(ケルビン)、

物質量(モル)の定義がまとめて改訂されます。改めてそれぞれの単位の発展の歴史を

振り返る、とてもよい機会を与えていただいたことに感謝する次第です。キログラムの

定義である国際キログラム原器は、人工物によるものとしてはもっとも長く君臨してきました。

まさに、単位の王様といってもよいでしょう。それが、その地位を追われるわけです。

人類の歴史にも通じる、『単位の興亡史』ともいえるお話が展開します。

 このような変遷・進化は、自然に起こったものではなく、必ず背景に何らかの

モチベーションが存在します。その大もととなったのは、(国際的な)経済・通商上の

ニーズです。そのほかにも、より正確・精密に諸現象をとらえて表現したい、その結果として、

人間の認識の限界を越えたいという科学上のニーズがあります。このように、人間が

ある程度恣意的につくった単なる約束事・ルールともいえる単位ですが、それは、

科学・技術、そして、イノベーションの大きな源泉でもあるのです」。

 

 来たる国際度量衡総会において、「キログラムの大きさは、プランク定数の値を正確に

6.62607015×10^-34Jsと定めることによって設定される」という。プランク定数といえば、

「光子の持つエネルギー振動数の比例関係を表す基礎物理定数の一つ」で、それが

なぜ質量の定義と結びついてくるのか、となれば一般人の手に負えるはずもない。

 重さは秤にかければいい、時間は太陽に訊けばいい――日々の営みに役立つはずの

単位系が生活を遠く離れて、例えば「二つの基底状態セシウム133超微細準位間の

遷移に対応する放射周期の9192631770倍に等しい時間」(1秒)、「29979

2458分の1秒間に光が真空中を伝わる距離」(1メートル)との定義を獲得する。

 いかにもややこしい。

 そして、さらに事態をややこしくするのは、そもそもが独立に生み出されてきたはずの

単位系が、精度を求める研究史の中で、気づいてみれば、交差すべくして交差してしまう、

というミステリーにある。

 ところが本書を読み進むにつれて、これらの話がややこしいどころか、シンプルさを

追い求める中で辿り着いた、人間の技術と英知のもたらす必然であることを知らされる。

メートルの定義がいかにもそれを物語る。時間を精密に測りとる技術なくして、どうして

長さを決めることができようか。メートル原器やキログラム原器、あるいは太陽(周期)と

いった「もの」よりも確かな何かを求める歴史は、至るべくして光速やプランク定数などの

基礎物理定数へと至る。

 

 単位という基礎の歴史を追跡していくと、いつしか物理学の基礎研究史に合流する。

順序としてはあるいは、基礎研究の落とし子が例えば単位に結実したとでも表現すべき

なのかもしれないが、いずれにせよ、本書は見事に科学の進化史をトレースする。

 

 現状の1秒の定義によって生じる誤差は15桁、つまり数十万年でようやく1秒の誤差が

生じるかどうか、だという。ここで私のような凡人ははたと手を止めてしまう、何を基準に

「誤差」といっているのか。1秒それ自体の定義のはずが、1秒の中に「誤差」を、翻って

「誤差」なき1秒を内在させる、そんな入れ子ループに束の間めまいを覚える。

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  • 2018.11.08 Thursday
  • 23:59
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