ぼくたちの失敗

  • 2018.11.23 Friday
  • 21:24
評価:
NHK「フランケンシュタインの誘惑」制作班
NHK出版
¥ 1,620
(2018-03-08)

「科学とはいったい何か? 科学者とはいったいどんな人間なのか? 加速度的に

進む科学技術と、我々はどう向き合ってゆけば良いのか? 考える手がかりとして

求めたのが、科学史の輝かしい成果の陰に隠れ、歴史の闇に埋もれたさまざまな

事件だった。現在から見れば異端とされたり傍流として消えていったものにこそ、

『科学』の正体を探るヒントがあるのではないか。そして、フランケンシュタインの

ような手痛い“失敗”から学ぶことができるはずだと考えた」。

 

 例えばガリレオは、天動説というルールを侵犯することで天文学を開拓した。

 例えばニュートンは、目的論的宇宙観を拒絶することで実証主義への道筋を得た。

 それは自然科学に限らない、すべてイノヴェーションの扉はルール・ブレイカーが

こじ開ける。しかしそのことは、彼らの科学的探究心を妨げるいかなるルールをも

否定する無法者たることを容認するものではない。それが本書の主題。

 もちろんそこには発見をめぐる根源的なジレンマが横たわる。「いまだかつて誰も

見たことのない光景」のその先にいかなる負のエフェクトが待ち受けるのかを、

どうして予め織り込むことができようか。なるほど、中長期的な観察を経てはじめて

確認される副作用のリスクを排除できぬことをもって批判を受けねばならないならば、

不治の病の特効薬の開発などままならないだろう。

 とはいえ、まさにこうした試金石にこそ、科学史を学ぶべき社会的意義が存在する。

 例えばナチス・ドイツが邁進した優生思想は、現代のDNA研究に何らの教訓をも

残し得ないのだろうか。「次世代シーケンサーで一人ひとりの遺伝子を隅から隅まで

読んでみると、どの人にも必ず遺伝子の欠陥が何十個もあるということがわかって

きました。つまり、遺伝子が“正常”か“異常”かという観点から優劣を区別しようという

考え自体が、科学的には間違っているのです」。

「ごく普通の人であっても他人を完全に支配できれば、たやすく悪魔になり得る」。

「スタンフォード監獄実験」は社会心理学のありとあらゆる教科書に参照されることで

不滅の悪名を獲得した。にもかかわらず、イラク戦争の果て、アブグレイブ刑務所では

その惨劇が寸分違わず再現された。「良いリンゴ」も「悪い樽」に放り込めばたちまち

「腐ったリンゴ」になる。ならば、社会が志向すべきルールは、「リンゴ」をやみくもに

罰することではない、「悪い樽」を作らせない工夫を講じることだ。

「純粋な学問が特定の思想や価値観と結びついたとき、いかに危険なものとなるのか。

自身の思考の枠組みに捉われ現実の非道から目を背けることが、いかに恐ろしい結果を

生み出すのか、心に焼き付けるために。重要なのは、学問それ自体に任せないことです」。

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  • 2019.08.18 Sunday
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