「ようこそ、人新生パークへ」

  • 2018.12.20 Thursday
  • 22:45

「確かに、失われたものを悼むべきだ。地球上の生物学的および物理的プロセスには

すでに消すことのできない人類の足跡がついている――このため、科学者たちは

しだいに今の時代を人新世と呼ぶようになってきた。……私たちの祖先は最大級の

陸生動物の大半を狩って絶滅させ、のちには貪欲な捕食動物や恐ろしい病気を

孤島に運んでほかの動物を絶滅させた。……その一方で、私たちのまわりには

まだ多数の種がいて、その多くが人間がいることで利益を得ているように見える。

人間が変えたこの世界で減少している種もいるが、繁栄している種もいるのなら、

将来の見通しは本当に生物学的衰退という悲運が予想される悪いものなのだろうか。

……本書でも、すでに生じて今日まで続いている多くのロス(損失)に注目する。

しかし、多くの点で、人間の時代に自然は驚くほどうまく対処している。生命全体を

見た生物学的等式のゲイン(利得)の側を無視するべきではない」。

 

 温暖化の影響だろう、あるリサーチによれば、「動物は10年でおよそ17キロの

スピードで、北極または南極に向かって移動している」。このデータを聞いて、

こんなことを思う者もあるだろう、ならば時間を遡って、本来あるべき土地に

戻してやらねばならない、それが自然の摂理だ、と。

 しかし、本書はそうした見解を一蹴する。なぜならば、そもそも「種の分布が

固定されているという考えは時代遅れ」なのだから。

 確かにそれは外的条件の変化によって強いられた移動かもしれない、しかし、

適した新天地を求めた彼らを自ら不向きとした場所に戻したところで何になろう。

 

 そもそもヨーロッパでは、長い氷期に常緑樹はほぼ死滅した。かつて存在した

ことは化石が教える。ただし、それらは地球上から消失したわけではなかった。

北アメリカや東アジアで生き延びた「親戚」が今、人間の手で「故郷」へ戻り

森を潤す。この「親戚」は果たして駆除されるべき「外来生物」なのだろうか。

 リンゴミバエという虫がいる。「リンゴの木の上で交尾し、リンゴの果実の中に

卵を産む。幼虫はリンゴの中で発育し、十分に育ったら、通常はリンゴの中に入った

まま地面に落ち、その後、這い出して、リンゴの木の下の土壌中で蛹になる」、

リンゴなしでは生きていけない、そんな依存性を持つ。ところで、この先祖を辿ると

サンザシミバエなる虫に至る。サンザシに差し替えれば、概ね同じ性質を示す。

不思議なことに、リンゴミバエはサンザシを嫌う。寄生する樹木が開花する時期の

違いにより発情のタイミングもずれる、だから交雑も起きづらい、結果「全般的に

両者はすでに遺伝的に隔離されて」いる。さらには、ミバエに寄生するハチまでも

宿主の変化に巻き込まれて性質を変えた。これら分岐はすべて「たったひとつの

導入植物が関与して起こっている」。

 世の趨勢は環境の変化で失われた「ロス」ばかりを数えようとしてしまい、

新たにもたらされるこうした「ゲイン」には目を向けようとはしない。

レッドリストが声高に叫ばれる一方、新種として聞こえてくるものといえば、

クローンやDNA組み換え技術の脅威だとか、害虫や細菌が薬剤への耐性を

獲得した、というように概して暗い話ときている。

 いい加減、そうしたバイアスから解放されるべき時が来ている。少なくとも、

愚かしい先入観に従って社会政策を規定する狂気は打ち切らねばならない。

 筆者は繰り返し力説する。「移動がかかわる絶滅はどちらかといえばまれで、

大陸間の接触の増加は普通、結果として多様性の正味の減少ではなく正味の

増加をもたらす」。

 この「接触」を媒介するのは人間、そう聞くと、たちまちにしてわれわれは

自然と人為という例の対立構図へと引きずり込まれそうになる。しかし筆者は、

各種リスクに目配せした上で、そうした固定観念を一笑に付す。

「ヒトという種は自然に進化したのだから、人間は自然なもののはずだという

ことを私たちは知っている。私たちは自然の一部である」。

 

 人はつい己が浅薄になぞらえて、巨大資本によって均質化された街並みと

「外来生物」の襲来を重ねずにいられない。豪州の入植史やブラックバスでも

引き合いに出されれば論破された気分にもなる。しかし自然の懐はむしろ、

「外来生物」から多様性を引き出さずにいない。本書に盛り込まれた例証が

「ゲイン」を教える。その希望を担えるのは今や人間を置いて他にない。

 環境保全を錦の御旗に純血を求めるムーヴメント、何かを想起させずにいない、

それは例えばナチスの唱えたアーリア人種の優生政策。

 池の水を抜く前に、立ち止まって観察すべき自然がある。

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  • 2019.03.16 Saturday
  • 22:45
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