いとしのエコン

  • 2018.12.27 Thursday
  • 21:55
評価:
リチャード・セイラー
早川書房
¥ 3,024
(2016-07-22)

「私の最大の目標は、行動経済学がどのようにして生まれたのかを伝え、その中で

私たちが何を学んだのかを説明することだ。……この本は、年代順にトピックを

取り上げる構成になっている。ここで本書の内容をざっと説明しておこう。まず、

私の大学院生時代に時計の針を巻き戻し、授業で習っていたモデルと矛盾する

おかしな行動を集めたリストをつくった原点に立ち戻る。……次に、研究者の道を

歩み始めてから15年間に私の関心の大半を占めた一連のトピック、すなわち

メンタル・アカウンティング、セルフコントロール、公正性、ファイナンスに目を

向ける。……その後、最近の研究を取り上げ、ニューヨーク市のタクシー運転手の

行動やNFLのドラフト、高額の賞金が懸かったゲーム番組の出場者の行動について

考えていく。そして最後に、ロンドンの首相官邸で帯同している刺激的なチャレンジと

チャンスを紹介する」。

 

「いま、政府が自国経済は深刻なリセッションに陥っていると判断し、全国民を

対象に、一人あたり1000ドルの一括減税をすることを決めるとしよう」。

 いわゆる「ホモ・エコノミクス」(本書では「エコン」という)は、例えばライフ

サイクル仮説に従って、こう考える。エコンはこれからあとn年生きることを前提に

使い道を模索する。40年と見積もれば、その間1000ドルを均等に消費するだろう。

より賢明な「エコン」はさらにスパンを拡げて自分の子孫に及ぶ効用に思いを致す。

この減税の財源が国債ならば、いずれ返済しなければならない、その際に税金として

支払わされるのは相続人だろう、ゆえにその臨時所得には手をつけず、遺産に回す。

 この超人エコンたちにどうして笑いを誘われずにいられるだろう。

「エコンという架空の存在を想定して、その行動を記述する抽象的なモデルを

開発するのをやめる必要はない。しかし、そうしたモデルが実際の人間の行動を

正確に記述しているという前提に立つのはやめなければならない」。

 

 本書が読者を連れ出すのは、「実際の人間の行動」をあぶり出すための実験や

データの数々。そして、問いかけは必然的に読者の思考テストを促さずにいない。

 それは例えばこんな具合。

 45ドルのラジオを買いに出かけたあなたは、店員から耳寄りな情報を聞く、

車で10分の支店では同じ商品がキャンペーン中につき35ドルで売っている、という。

さて、あなたはそちらへ出向くだろうか。

 そして後日、485ドルのテレビを求めて足を運んだあなたは、やはり同様に、

系列店で現在475ドルで販売されていることを知らされる。値引き幅は10ドル、

果たしてあなたは車を走らせようとするだろうか。

「エコン」にとっては同じ10ドル、でも、「ヒューマン」にとっては違う、きっと。

 

 こんな具合に、読者の関心を誘う工夫が見事に施されている。そして、本書が

すぐれているのは、そのこと自体が筆者のテーマ設定と重なっている点にある。

 パターナリズムのトップダウンで強制を加えることはしない。ただし、「人々が

自分自身の目標を達成するのを支援する」ようなアーキテクチャを組むことは

できる。つまり例えば、小用の便器に的のシールを貼りつけることで、尿の飛散を

抑制するように、あるいは、これ面白い、と最後まで読み通すことで、少なからず

行動経済学のレクチャーが果たされるように。

 

 先の10ドル値引きに話を戻してみる。

 ラジオだろうとテレビだろうと、少数ながらも「ヒューマン」は、親切な店員に

販売実績が残るように、10ドル程度ならあえて差額を払うことを惜しまない。

 ところが、現代の「ヒューマン」はある面「エコン」より先を行ってしまった。

実店舗は商品に触れるショールームに過ぎず、購入はスマホで最安値を探す。

陳列コストがある以上、コスパではネットに勝ち目がない。とても、合理的だ。

 そうしてアメリカではトイザらスが崩壊し、かつて小売店をなぎ倒していった

大型モールすらも死屍累々の山を築く。

 巨大倉庫と各家庭を輸送手段とITがつなぐ。残るのはせいぜいコンビニか、

ファストフードか、ロードサイドには他に何もいらない。

 これが「ヒューマン」の夢見た消費社会の結晶だ。

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  • 2019.03.16 Saturday
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