死と歴史

  • 2019.04.20 Saturday
  • 21:17
評価:
ケイトリン・ドーティ
新潮社
¥ 1,836
(2019-02-27)

 本書の原題は、FROM HERE TO ETERNITY: TRAVELING THE WORLD

TO FIND THE GOOD DEATH

 何がどうしてこんな安っぽい邦題になってしまったのか。

 

「葬儀ビジネスに携わっていて何より不思議に思うのは、アメリカ文化はなぜ

死についてこれほど臆病なのかということ。なぜ死の話題を避けるのか、

死んだらどうしてもらいたいか、尋ねることに抵抗を感じるのはどうしてなのか。

逃げていても決して自分のためにはならない。かならずやってくる終わりについて

話し合うことを避けていると、結果、金銭的な負担は増し、死を悼むゆとりは

奪われる。

 ほかの文化では死がどう扱われているのか、現地に行って自分の目で

確かめられたら、死に“対処する”方法、死を理解する方法は一種類だけでは

ないし、あらかじめ用意されているものでもないことをきちんと説明できるのでは

ないか。私はそんな風に考えるようになった。そこで数年をかけて世界中を旅し、

各国の葬送の儀式を見て回った――オーストラリア、イギリス、ドイツ、スペイン、

イタリア、インドネシア、メキシコ、ボリビア、日本、そしてアメリカ国内の各地」。

 

 インドネシアはスラウェシ島にタナトラジャという村がある。筆者はそこで

「マネネ」に立ち会う。それぞれが生贄の動物を持ち寄ってはその出納が

記録される、「支出過剰」の贅を凝らした儀式として知られる。遺体の主は、

「西洋医学の定義する死という観念からは、葬儀の三カ月前……に亡くなった。

しかしトラジャ族の伝統に従うと、……まだ生きている。もう息はしていないかも

しれないが、身体の状態は、高熱を出しているとき、病気のときに似ている。

この病気は、最初の水牛かブタが生け贄として捧げられる瞬間まで続く」。

それまでの間、「死者は自宅に安置される。……その期間は数カ月から、

場合によっては数年に及ぶこともある……葬儀までのあいだ、遺族は食事を

運んだり、着替えをさせたり、話しかけたりして死者の世話をし、ミイラ化させる」。

 マネネには送り出しとともに、日本の盆に似て、出迎えの性質も持つ。墓から

ミイラを取り出して銘々の家族が連れ帰り、着替えやメンテナンスを施しながら

同じ時間を過ごす。

 入国審査の際にタナトラジャへの訪問を告げると、すかさず係員に「死体を

見に行くんですか」と尋ねられる。マネネは既に観光産業と化して久しい。

「“首狩りと黒魔術”の地というイメージからの脱却を望み、高度な文化伝統の

一員として見られたい」、そんな背景も横たわる。説教の途中、司祭が突然

「マイクに向かい、デスメタルバンドのボーカリストみたいに絶叫した。……

講話は(踊りの振り付けや衣装のセンスも)テレビのバラエティ番組かと思うような

ものになってきている」。観光客の「あるカップルは、遺族席に並んだ折りたたみ

椅子にさっさと腰を下ろした。……髪を薄汚れた金髪に染めた年配のドイツ人

女性は、お祭り騒ぎが始まった中庭の真ん中につかつか歩いていくと、

マールボロ・レッドをすぱすぱ吸いながら、村の子供たちの鼻先にiPad

突きつけて写真を撮った」。

 

 見たいものを見る、見たくないものは見ない。

 フィリップ・アリエスを改めて引くまでもない、遺体はいつしか見たくないものの

典型と化した。彼らにとってマネネの寄り添いはあくまで見世物小屋の類として

見るためにのみ存在する。あくまでタナツーリズムのアトラクションを楽しみたい

観光客は、決して見られる存在としての自身の死を投影することはない。

 この旅を通じて筆者は気づく。「スペースこそが何より肝心なものであり、

それこそいまの社会に欠けているものだ。スペースを築くというのは、

どう思われるかと心配することなく気がすむまで思いきり嘆き悲しむことが

できるよう、死者の家族や友人の周囲に防壁を築いて外の世界から

守ることを意味する」。

 葬儀社や僧侶にたからせるか、儀礼を排し簡素に済ますか、その両端の

いずれでもなく死者を弔うそのあり方を、アウトサイダーの視線を通じて

見つめ直す。死というものには、他者の目を借りるべき固有の意味がある、

なぜなら自分自身の死を見ることはできないから。

 見られないまま灰と帰する、他者の死を見ないというのはそういうことだ。

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  • 2019.05.31 Friday
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