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    ヤングアダルト

    • 2020.02.05 Wednesday
    • 21:59

     ファウストよろしく知に倦み果てたヴィクター・フランケンシュタインは、「時間の

    流れを遡り、知識の足跡を逆にたどり、……忘れられた錬金術師の夢を求めた」。

    解剖学に魅せられたダ・ヴィンチをなぞるがごとく、「堂々たる体格の男が朽ち果て、

    無に帰していくさまを眺め、生命の徴候を宿した頬が死の腐乱に乗っ取られる

    ところを見守り、驚異の結晶とも呼ぶべき人間の眼球や脳を蛆虫が食いあさる

    様子を凝視しました。……こうした観察から得られた、生から死へ、死から生へと

    転じる原因と結果と思われるものを、どんな些細なものも余さず詳細に分析し、

    検討し続けたのです。そうするうちに、この先も見えぬ漆黒の闇の彼方から突然、

    ひと筋の光明が射してきました」。

     そうして彼は怪物を生み出した。

     

     原子力やAIを典型に、人智にして人智を超えた制御不能なモンスターを

    科学に重ねる、そんな読み方もできるだろう。ある時代においては、肌の色に

    根拠を置いた人種差別の悲哀が投影されることもあっただろう。現代ならば、

    リチャード・ジュエルがやがてジョーカーへと変じる、そんなローン・ウルフの

    原型を見て取ることもできるかもしれない。

     だが、本書においてまず観察されるべきは、アダマ(土)に息を吹き込む

    ことで己が似姿に生命を注いだ物語を重ねることで神に比肩し、神を失い、

    ただし全知全能の属性を欠いた近代自我の帰結に他ならない。

    「ああ、神よ! あの怪物の悪魔のごとき企みにどれほどいまわしい意図が

    隠されていたことか、ほんの一瞬でもそこに考えが至っていれば、……自ら祖国を

    永遠に去り、友もいない孤独な世捨て人となってこの地上をさまよい続ける道を

    選んでいます。けれども、これもまたあの怪物の魔力のせいでしょうか、わたしは

    眼をふさがれたように、あやつの真意を読み取れなかったのです」。

     神託を辿る他ないわが身を嘆くオイディプスならば、物語をそこで閉じることが

    できただろう。しかしフランケンシュタインの眼前にもはや神は残されていない。

    「慰めを得る手段」は唯一、「孤独と錯乱から生まれ」る、ノスタルジアなるものが

    すべからくそうあるように。恋しきエデンの記憶すら有無すら知れぬ辿り着き得ぬ

    彼岸でしかなく、やがてヴィクターが看破する通り、イヴはアダムを癒さない、

    今、ここを共有可能な主体であることがもはやできないのだから。

     再帰型近代の磔にされた彼が向き合うことを許されるのはもうひとりの「わたし」、

    怪物の他に何もない。この独白体で構成される小説の巧みは、ヴィクターと怪物が

    ともに「わたし」を主語にとることで図らずもその同一性を明かすことにある。

    「わたしが為さねばならぬのは、この手で創り出した怪物を追いつめ、滅ぼす

    ことです。それが終われば、この地上でわたしに与えられた運命は完結した

    ことになる。そのとき、わたしも死ぬことができるでしょう」。

     すべてエロスはタナトスを通じてのみ規定される。

     ここでもまた、フロイトは偶発的に真を衝く。

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