意志の勝利

  • 2017.03.04 Saturday
  • 20:11

 ボートとはそもそもが「上流階級のスポーツ」、東部のエスタブリッシュメントの卵たち、

「議員や政治家の息子や産業界の大物の息子、あるいは大統領の息子がやるスポーツ」、

そんな彼らに西部大学、「農家や漁師や木こりの息子」が殴り込みをかける。

 やがて舞台は国内の階級図式を超えて、1936年のベルリン、国威発揚の場としての

オリンピック、閣下の御前で最後の決戦に「ならず者」どもが挑む。

 

 さながら、花形満に対峙する星飛雄馬のようなマッチ・メイク、果たしてリアルは時に

フィクションの極貧を凌駕する。

「痛みはジョーにとって、目新しいことではない」。

 本書の中心人物はジョー・ランツ、その背に負わされた運命はあまりに苛烈、継母との

不和などを理由に、わずか15歳にして単身、夢破れた父の農場に置き去りにされる。

ただでさえ、大恐慌に天災が相次いで降りかかる時世にあって、「幸せになりたければ、

幸せになる道を自分で探さなきゃいけない」との教えを胸に少年は現実に立ち向かう。

 

  苦しくたって 悲しくったって

  ボートの中では 平気なの

 

 アメリカ発のドロドロスポ根立志伝。

「彼らはみなすばらしいテクニックをもち、根性があり、断固たる意志をもち、それでいて

心根もよかった。そして彼らはみな、貧しく生まれたり、生まれ育つ過程で時代の憂き目に

あい、苦労を味わったりした青年たちだった。彼らはみなそれぞれのやり方で、労せずに

得られるものなど人生には何ひとつないことを学んできた。肉体的な強さや美しさや若さが

あっても、それよりずっと大きな力が世界には働いているのだと、彼らはみな知っていた。

そして彼らはともに困難に立ち向かう中で、謙遜するということを、いいかえれば個人のエゴを

クルー全体の利益の下に置くことを学んだ。この謙遜という門をみながくぐったからこそ、

メンバーはこうして一体となり、これまでできなかったことができるようになったのだ」。

 尊敬する人、宗方仁の私にすら刺さる説得力、そして説教臭さ、現代ではそう書けない。

 

 そして素材の良さを筆者の技術がきっちり活かす。とりわけ秀逸なのはコントラストの加減。

現代にも相通じる米国内の東西図式然り。糧を得るべくジョーが肉体を差し出すはニュー・

ディールのシンボル、グランド・クーリー・ダム。対して最終到達地としての決戦の舞台は

ヒトラー肝入りの公共事業。その場において、後の連合国と枢軸国が相まみえる。

 

 世界を驚愕させるピッチで先制ダッシュを決めながらも、間もなく失速する日本代表の姿、

まるで未来を予知するように。

 

 問答無用に面白い、面白すぎる。

 本書といい、『リアル・スティール』といい、もはやアメリカこそがスポ根の殿堂、そんな

屈辱に首を垂れつつ、日本でもベストセラー化して欲しい、そう願わずにはいられない。

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  • 2019.08.18 Sunday
  • 20:11
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